田んぼの稲が黄金色(こがねいろ)に色づき始めました。あと半月もすれば、いよいよ稲刈りの時期を迎えます。
「農マド」と言いながら、「農」のことをあまり書いていなかったブログですが、今日こそは農業のことを書きたいと思います。
そして特に、僕自身はお米作りに取り組んでいるので、僕個人が見たお米作りの現状や、そこから未来へどう繋げていったらいいのかをお話ししていきます!
【2019年4月12日追記】
とはいえ、ここでお話しするのは一個人(しかも、僕は専業ではなく兼業の農家です)からの視点であり、日本全体のことを網羅できているわけではありません。
また、何かの文献を参考にしたわけではなく、人から伝え聞いたことを元にしていることも、ご了承いただければ幸いですm(_ _)m
コメ作りを取り巻く現状
よく「何を作ってらっしゃるんですか?」と聞かれるんですが、今のところ栽培・販売しているのはお米です。
僕は本当にお米作りが好きで、今までたくさん辛いこともあったのですが、お米を育てることだけは辞められません。
ですが、正直なことを言うと、お米作りは利益が出ません( ̄▽ ̄;;
これは僕のところだけでなく、多くの農家さんでそうだと思います。
お米って、利益が出にくいんです。
大規模に栽培されているところは別として……というか「コメ農家」と呼ばれる方々は概して大規模に栽培されているのですが、それ以外はみんな利益が出ずにやっています。
僕の近所には会社員や自営業をしながら田んぼをされている兼業農家さんが多いのですが、みんな赤字になりながらお米作りをしています。
「なんで?」
って感じなのですが、これが日本の現状だったりします。
主食であるお米を栽培しても利益が出ないのです。
お米作りで利益が出た時代
ですが、以前は(高度経済成長期くらいまで)、お米作りでも採算が取れていたそうです。
というか、当時のお米の値段って今より格段に高く、「1ヶ月に家族で食べるお米の価格=初任給の金額」くらいだったそうです。
でも、これは伝え聞いた話に過ぎず、根拠を確かめたわけではないので、あくまでもイメージとして捉えてください。
要は、お給料のほとんどがお米代で消えていたわけです。エンゲル係数がバリバリ高かったのです。
ですから、当時は「会社員になるなんてバカだ」「農家はそのまま農家でいる方が豊かでいられる」と言われていたそうです(これは実際、年上の農協職員さんに聞きました)。
つまり、極端に言えば、「会社員は貧乏で能のない」人がなる職業で、「農家はお金持ちで優秀」な職業だったのです。
お米の価値が下がってしまった
ですが、今ではどうでしょうか? 完全にこれが逆転して、
- 公務員は優秀な人しかなれず将来が安泰だ
- 農家は肉体労働が大変で利益も少ない
という職業観になっています。
特にお米の栽培に関してはそれが顕著で、大規模な面積の農地がないと採算が取れなくなってしまいました。
具体的な数字で言えば、「3ヘクタール(ha)くらいないと家族を養えないよ」と言われたことがあります。
要するに、大量に栽培して販売しないと採算が取れないくらい、お米の1粒あたりの価値は以前に比べてガクンと下がってしまった、ということなのです。
ちなみに、我が家の持っている農地は70a(=0.7ha)なので、4倍以上の面積が必要になります。また、農地が一箇所に集約しているわけではなく、一つ一つの形もいびつなので、大規模な機械に向きません。ですので、お米の大規模栽培で採算を取るのは、現実的には難しいと考えています。
こういうことは中間山地の地域では多く起こっていて、傾斜が激しかったり、農地が点在していたりして大規模な農業ができないケースが多いのです。
コメ農家が苦しいのは国が豊かな証
ただ、これは農家の視点から見ると、「コメでは利益が出ない」「採算が取れない」ということになるのですが、食べる側(消費者側)からの視点で見ると歓迎すべきことです。
だって、「以前は高かったお米の値段が安くなって、誰でもお米を食べやすくなった」ということですから。
社会を見渡しても、お米はそこかしこで手に入り、レストランなんかへ行くとご飯の大盛りが無料だったりします。お店によっては「おかわり自由」だったりします。
こんな風に、お米の価格は下がり、誰でも食べられるものになりました。
「お米が食べられなくて飢える」ということは、ほぼ無くなったと言えるでしょう。
そして、収入の中に占める食費のパーセンテージも下がるので(=エンゲル係数が下がるので)、食品以外のものにお金を使えるようになります。
娯楽であったり学習であったり、家族との旅行であったり、あとスマホやパソコンもそうですね。
こんな風に、食料品へのコストが下がれば、生活の質(QOL)が上がるもの。
ですから、お米の値段が下がったことは、日本という国全体の視点から見ると歓迎すべきことだと言えます。
つまり極端に言えば、米作りで利益が出ないほど、日本全体は豊かに暮らせるようになる、ということです。
お米の大切さを忘れてはいけない!
「何を言っとんねん! それじゃ、コメ農家がつぶれるやろうが!」
「価格が下がってもお米は貴重なもの。日本の大切な文化だ!」
「お米を育てる農家が苦しいのはおかしいやろう!!」
と思われるかもしれません。
その通りです。僕もそう思っています。
- 仮に価格が下がったとしても、お米は大切なもの
- 人々が感じる「価値」は下がっても、人々の命を支えることには変わりない
- どれだけ社会が豊かになっても、お米の「大切さ」を忘れてはいけない
こんな風に考えて、今まで活動してきました。
お米の大切さをネットで発信したり、「命を支えているものですよー」と会う人にお話ししたり、お米の大切さを描いたマンガのパンフレットを作って配ったりしました。
ですが、失敗しました。
そうやって「お米の大切さ」を伝えて、お米の価格を上げて販売しようとしたのですが、上手くいかなかったのです。
……いえ、少しは値段を上げて販売できるようになりましたが、採算が取れるようになるまでには至っていません。
それだけ時代の流れというのは残酷で、過去に戻すことはできない。
インターネットでどれだけ個人の発信力が高まったところで、社会に広がってしまった価値観を揺るがすことはできない。
そんなことを学びました。
けれど、お米の大切さを伝えることを諦めたくはありません。
モノの価値から体験の価値へ
そんな状況の中で、最近あることに気づきました。
「ん? モノの価値が下がっているのって、お米だけじゃないよね?」と。
そうなんです。先ほどのように、お米の価格は以前に比べて大幅に下がってしまいました。
ですが、最近の時代の流れを見ていると、お米だけではなく他のモノの値段も下がっているのです。
……いえ。「モノの値段が下がっている」というよりも、「モノそのものが売れなくなっている」という方が正確でしょうか。
よく言われる「若者の車離れ」もそうですし、テレビを見る人もどんどん減っていると言います。ブランドのバッグに憧れる人も減っているようです。
「ミニマリスト」という言葉も流行っているように、そもそも「モノを持たないこと」が推奨される流れも起きています。
つまり、モノそのものの価値がどんどん下落している、ということです。
「じゃあ、何にも売れないじゃん!」と思ってしまいますが、そうではありません。今はモノ以外のものが売れる時代なのです。
「モノ以外のもの」とは何かと言うと「体験」です。
今の時代は「体験」に価値が見出され、そこにお金を払う人が増えているのです。
“体験”にお金を払う時代
わかりやすい例で言えば、ディズニーランドやUSJといったテーマパークです。
あそこにお金を払って入場しても、基本的に何もモノは手に入りません。「楽しい体験」や「思い出」だけが手に入ります。
ですが、ディズニーやUSJは変わらず人気ですし、USJなんかは入場料の値上げまでしています。
また、僕自身、インターネットでのコミュニティ運営に関わらせていただいていますが、そこで皆さんが求めていらっしゃるのは、「何かを学ぶこと」だったり「仲間と一緒にワイワイ楽しむ」ということだったりします。
こういった事例を見ると、今の時代は「モノではなく体験に価値がある!」ということがわかるのです。
*この「モノではなく体験に価値がある」というのは、下記の書籍を参考にさせていただいています。
農業も体験を提供する時代へ
これを農業に当てはめると、色々な可能性が考えられます。
ただ、わかりやすい方法を挙げるなら、農作業の体験に来てもらう企画や仕組みを作るということになるでしょう。
お米作りで言えば、「田植え体験」や「稲刈り体験」ですね。
実際、どこかの酒造会社さんが田植えや稲刈りの体験イベントを開催されているのですが、毎年たくさんの人が参加されると聞いたことがあります。
こんな風に、農業に関しても、お米や野菜といった「モノ」を提供するのではなく、「体験」を提供する形にすれば、そこから大きな価値が生まれる可能性があります。
ただ、
- 農作業を好んでやってくれる人がいるのかなぁ? とか
- どうやって人を集めればいいんだろう? とか
- 人が来てくれたとしても、安全管理とか大変じゃん!
といった壁はあります。
実際、僕も以前に農業体験のイベントを開催したことがあるのですが、安全管理などがかなり大変でした(^^;
また、当時は「これでお金もらっていいの?」という想いもありましたし……。
ですが、時代の変化を見ていると、やはり「体験」に価値を見出す流れになっていると思います。
SNSもどんどん普及して、人と繋がることも簡単になりました。しかも、共感してくれる人との出会いを生んでくれます。
そういった流れの中で、
- 「農」に触れる体験を提供する
- そして、お米の大切さを伝える
ということが大事になってくるだろう、と感じるのです。
とはいえ、僕自身はまだまだ色んなハードルがあって、これを実践するところまでたどり着けてません。
(過去の農業体験イベントで失敗した経験もありますし……)
ですが、この記事をもしどこかの米農家さんが読んでくださって、「自分とこでならできそう♪」ってなってもらえたらとても嬉しいなぁ……と思い、ここまで書かせていただきました。
あくまでも、しがない兼業農家の一意見(妄想含む)ですが、少しでもご参考になれば幸いです。
などを書かせていただいています。
(「農マド」と言いながら、農業やネット関係の記事は少なめです(^^;;)
あなたの人生にとってお役に立てる内容があるかもしれませんので、よかったらご覧ください。