『自然農法』という言葉に初めて出会ったのは、インターネットでした。
当時、農薬や化学肥料に頼らない農業を目指していた僕は、インターネットで情報を集めたのです。
最初は「有機農法」から検索し、そこから「自然農法」にたどり着きました。
自然農法というのは、「農薬を使わず肥料も一切使わない」というのを基本とします。
ここで言う「肥料を使わない」というのは、「有機肥料も使わない」という意味で、化学肥料だけでなく牛の糞や油粕といった自然由来の肥料も使いません。
そんな世界に触れて僕の胸はときめきました。
もともと自然が好きで、できれば農薬や化学肥料を使いたくないという想いがありましたし、できるだけシンプルな方法が次世代や環境への負担が少ないと考えたからです。
そして、さらに運の良いことに、めちゃくちゃ近所で自然農法を実践している人に出会いました。
商売ではなくボランティアで野菜を栽培されている方でしたが、仲間を集めて自然農法を広める活動をしていたのです。
「これは運命だ!!」
と僕は思い、その人に教えを乞い、自然農法を始めました。
ですが、自然農法を学び実践しているうちに、様々な違和感を抱くことになるのです。
自然農法の定義はいくつもある?!
初めに抱いた違和感というのは、「あれ? 自然農法っていくつもあるの?」ということでした。
僕が一番最初に見つけた『自然農法』は、福岡正信さんという方が始められたものでした。
ですが、僕が近所の人に教えてもらった自然農法は、岡田茂吉さんという方が提唱されたとのこと。
この時点で「あれ?」となりました(^^;;
「同じ自然農法なのに、始めた人が違うの?」と。
しかも、実践してみると、定義も方法も全く違うことがわかりました。
異なる自然農法に出会う
福岡正信さんの『自然農法』
福岡正信さんの唱える『自然農法』の定義は、「人は何もしない」ことが基本です。
人が余計な手を入れるから自然が乱れるのであって、人は手を入れず自然に任せるままが良いのだ、と。
ですから、福岡さんの自然農法は、「農薬や肥料を使わない」に加えて、
- 耕さない
- 害虫を駆除しない
- 除草もしない
というものが加わります。
岡田茂吉さんの『自然農法』
一方、僕が学んだ岡田茂吉さんの『自然農法』は、人の手がガンガン加わります。
「農薬や肥料を使わない」は変わらないのですが、
- 耕してOK
- 草は取ろう!
- 害虫駆除は自然な方法であればOK
- 肥料はダメだけど、堆肥は使おう!
というものでした。
2つの自然農法に混乱
当時の僕は「肥料と堆肥の違いって何?」というレベルでしたから、これだけ違いがあることにめっちゃ混乱しました。
「どっちが本当の自然農法なんだーーーーー?!」と、定義が全くわからなくなったのです。
最終的には、どっちもそれぞれの方針を貫いた別々の自然農法なのだと気づくのですが、初心者だった僕は、そういったところから混乱してしまったのです。
ちなみに、肥料と堆肥の違いは何かというと、
- 肥料は植物に養分を与えるもの
- 堆肥は土壌環境を整えるもの
(土を柔らかくしたり微生物を豊かにしたりする)
という風に僕は定義しています。
どんどん出てくる“自然”な農法
しかも、さらに調べていくと、「自然」とつく農法は他にもあることがわかりました。
川口由一さんの『自然農』
「農薬や肥料を使わない」に加えて「耕さない」を方針とする、川口由一さんの『自然農』(人の手での草取りはOK、害虫駆除はNG)。
川口さんの特色は「農法」ではなく「農」という一語にされたというところ。
この「自然農」という呼び方は、川口さん独自のものになっています。
うろ覚えですが、「法」という言葉を入れると方法論に陥ったり、経済活動に傾いたりするけれど、農というのは本来生き方そのものであり、人生や自然全般を捉えるために「農」という一語にした、というようなことを本か何かで読んだ記憶があります。アヤフヤですみませんm(_ _)m
木村秋則さんの『自然栽培』
そしてそして、木村秋則さんの『自然栽培』にも出会います。
木村さんは、言わずと知れた『リンゴの奇跡』有名な方。
木村さんの自然栽培のことを「自然農法だ」と思っている人が多いかもしれません。
基本方針は「農薬や肥料を使わない」ですが、「耕すことはOK」となっています(堆肥はNG。草取りOK。害虫駆除は自然由来のものであればOK)。
他にもまだまだ
また他にも、
- 赤峰勝人さんの『循環農法』
- 岩澤信夫さんの冬期湛水と不耕起の稲作
- 林幸美さんの『炭素循環農法』
などなど、たくさんの“自然派”の農法のことも知りました。
こんな風に、「自然」という言葉のつく農法や、自然を大切にする農法には沢山の定義があり、方法もそれぞれに異なることがわかったんです。
そして、それが僕に大きな混乱をもたらすことになります……。
それぞれの自然農法の特色を整理!
ここで、今までお伝えしてきた自然農法と、その特色を整理してみましょう!
名称(提唱者) | 農薬 | 肥料 | 堆肥 | 耕起 | 除草 | 防虫 |
自然農法 (福岡 正信 氏) |
× | × | × | × | × | × |
自然農法 (岡田 茂吉 氏) |
× | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
自然農 (川口 由一 氏) |
× | × | × | × | ○ | × |
自然栽培 (木村 秋則 氏) |
× | × | × | ○ | ○ | ○ |
※とにかくわかりやすくすることを目的にした表です。具体的な事例によっては、異なる場合もありますので、ご了承くださいm(_ _)m
これを見てもわかるように、「自然」という言葉が付いていても、その定義や方法は全く異なるのです。
ですが僕は、「どれが正しい!」とか「これは間違っている!」というつもりはありません。
どの農法も、「世界を良くしたい!」「人々に貢献したい!」という信念の元に、それぞれの方法や特色が提唱されています。
だから、どれが良くてどれが悪いということはないのです。
というか、僕の目にはどれもこれもが素敵に映ったので、全ての方法を試しました。
ですが、その結果、迷路に迷い込んでしまうことになります……。
自然農法のノウハウコレクターに
少し話が逸れますが、ビジネスを学んでいて出会う言葉に「ノウハウコレクター」というものがあります。
これは、「あらゆる知識や方法を学んだのは良いけれど、実践に落とせなくてグルグル迷ってしまう」という状態のことです。
農業において、僕はまさに「ノウハウコレクター」になってしまいました。
「自然」という言葉のつく栽培法を手当たり次第に学び、それを実践していったところ、「知識は増えたけれど、全く成果が出ない」という状態に陥ってしまったのです(^^;;
あらゆる自然農法や自然栽培はどれもこれも魅力的です。
定義や方法は違っても素敵なものばかりです。ですから、その全てを試したくなったのです。
けれど、全ての方法を十分に実践できるはずもなく、そのどれもが中途半端になってしまい、結局目立った成果が出ないままになってしまいました……。
結果、失敗ばかりが続き、僕は自然農法に挫折することになります。
(そこから、インターネットでの発信やビジネスに繋がっていくのですが、それはまた別の話……)
もしかしたら、「自然農法に取り組もう!」という方には、こういうことが多いかもしれません。
自然農法を調べ始めると、たくさんの定義や方法が出てくるので、混乱して前に進めなくなってしまう可能性があるのです。
あるいは、一つの方法に傾倒して、「これが正しいんだ! 他は間違ってる!!」と排他的になってしまうこともあるでしょう。
実際、僕はそうなりました。
だからこそ、自然農法に取り組むときに気をつけたいことがあるんです。
農法ではなく“生き方”や“考え方”を学ぶ
たしかに、どの農法も魅力的だし正しいと思います。
ですが、注意すべきなのは、「どんな農法や考え方においても、その具体的な方法がそのまま自分に当てはまるとは限らない」ということです。
農地の状態や環境は、その地域によって異なります。また、農業者ひとりひとりの性格や特性も違います。
ですから、どれだけ素晴らしい方法が提唱されていたとしても、それが自分の土地や自分自身に合うかはわからないのです。
- 僕は、本で見たことをそのまま自分の土地で実践しようとしました。けれど、失敗しました。
- 自然農法の団体にも登録して、指導員さんに教わりながら実践したりもしました。けれど、失敗しました。
つまり、具体的な方法に落とし込もうとすると、本で学んだことや指導員から教わったことがそのまま通用するわけではないのです。
ですから、自然農法を実践しようとするときには、具体的な方法をそのまま取り入れるのは注意が必要です。
それよりも学ぶべきは、提唱した人の生き方や考え方でしょう。
たしかに目立つのは具体的な栽培方法ですが、それも元々は提唱者の生き方がベースになっています。
つまり、提唱者の生き方や考え方を元に、その人の土地や環境や性格にあった具体的な方法に落とし込まれているのです。
であれば、新たに自然農法を実践する場合は、提唱者の生き方や考え方を取り入れ、具体的な方法についてどうするのかは自分自身で判断することが必要です。
誰かが言ったことをそのまま取り入れようとすると、先ほどの僕のようにノウハウコレクターになってしまうだけなのです。
「自然農法」の定義はひとりひとり違う
ぶっちゃけて言うと、僕は「自然農法をしています」とは言いたくありません。
なぜなら今の僕は、今までお伝えしてきたどの農法とも違う定義と考え方で実践しているからです。
初対面の人にもわかりやすくするために、「自然農法をしています」という自己紹介をするのですが、本当は「自然農法」という言葉は使いたくありません。
今までお話ししてきたように、自然農法にはあらゆる種類がありますし、その定義も方法も違います。
そして何より、自分自身がどの方法にも当てはまりません。
僕はあくまでも、僕自身の定義と方法で栽培に取り組んでいます。
現在は小規模で、本当に小ぢんまりとした状態ですが、これから農業を拡げていくにしても、自分の農地と自分自身にあった方法で実践していくつもりです。
それは、以前に「自然農法のノウハウコレクター」になってしまい、たくさん失敗をしてしまったからです。
それよりも、先人から学ぶべきは“生き方”や“考え方”であり、具体的な方法に落とし込むときは、ひとりひとりにあった方法にするのがいいと考えています。
むしろ、それが一番自然だと思います。
そう。「自然農法」というのは実は、決まった定義や方法があるのではなく、栽培する人ひとりひとりによって違うものなのではないでしょうか?
だから僕は、自分に合った自分オリジナルの「自然農法」にチャレンジしたいと思います。
あなたにもぜひ、自分自身の「自然農法」の定義と方法を見つけていただきたいと思います。
僕の経験が少しでもお役に立てれば幸いです(^-^)
などを書かせていただいています。
(「農マド」と言いながら、農業やネット関係の記事は少なめです(^^;;)
あなたの人生にとってお役に立てる内容があるかもしれませんので、よかったらご覧ください。